小説「世界でいちばん透きとおった物語 」の感想

杉井光著『世界でいちばん透きとおった物語』は、2023年に出版されたミステリー小説である。大御所ミステリ作家の宮内彰吾が、癌の闘病を経て61歳で死去する。女癖が悪かった宮内は、妻帯者でありながら多くの女性と交際しており、そのうちの一人とは子供までつくっていた。それが主人公の燈真である。燈真は、宮内が遺した小説「世界でいちばん透きとおった物語」を執筆し、出版することになる。しかし、その小説には、宮内が燈真に伝えたかったある秘密が隠されていた。

本作の最大の特徴は、紙の本ならではのトリックを駆使した構成である。小説「世界でいちばん透きとおった物語」には、本文の一部が透けて見える「透け字」が使われている。この透け字には、小説の真相を暗示するようなメッセージが隠されている。読者は、小説を読み進めながら、透け字の意味を探っていくことになる。

このトリックは、単純ながらも非常に効果的である。透け字の存在が読者の注意を引き、小説の世界に引き込むきっかけとなる。また、透け字の意味を探っていく過程で、読者は小説の真相に近づいていくことになる。この緊張感と謎解きの楽しさが、本作の大きな魅力となっている。

本作は、単なるミステリー小説にとどまらない、様々なテーマが盛り込まれた作品でもある。その一つが、家族の物語である。燈真は、父親である宮内から愛情を十分に受けることができなかった。しかし、宮内が遺した小説を通して、父親の愛情を少しずつ理解していくことになる。

また、本作は、創作の物語でもある。燈真は、父親の遺志を継いで小説家になることになる。しかし、小説を書くことに葛藤を抱えている。燈真は、父親のように、多くの読者に愛される小説を書くことができるのだろうか。

本作は、読者の想像力を刺激する、意欲的な作品である。紙の本ならではのトリックを駆使した構成は、読者に新鮮な驚きを与えてくれる。また、家族、創作といった様々なテーマが盛り込まれており、読者の心に深く響く作品となっている。

以下に、本作の具体的な感想を述べる。

まず、紙の本ならではのトリックの巧みさは、非常に評価できる。透け字の存在は、読者の注意を引き、小説の世界に引き込むきっかけとなる。また、透け字の意味を探っていく過程で、読者は小説の真相に近づいていくことになる。この緊張感と謎解きの楽しさが、本作の大きな魅力となっている。

特に、透け字の意味を探っていく過程で、読者が様々な仮説を立てることができる点は、本作の面白さの一つである。例えば、透け字には、小説の伏線が隠されているのではないかと考えたり、小説の結末を暗示しているのではないかと考えたりすることができる。このように、読者は、自分の想像力を駆使して、小説の真相を探っていくことになる。

また、本作は、家族の物語としても、非常によく描かれている。燈真は、父親である宮内から愛情を十分に受けることができなかった。しかし、宮内が遺した小説を通して、父親の愛情を少しずつ理解していくことになる。この過程は、読者の胸を打つものである。

燈真は、父親である宮内を尊敬し、彼のような小説家になりたいと願っている。しかし、燈真は、小説を書くことに葛藤を抱えている。彼は、父親のように、多くの読者に愛される小説を書くことができるのだろうか。

この葛藤は、多くの小説家が抱える普遍的な問題である。本作は、この葛藤を、燈真という一人の人間を通して、リアルに描き出している。

このように、本作は、紙の本ならではのトリックを駆使した構成、家族の物語としての面白さ、創作の物語としての奥深さなど、様々な魅力を兼ね備えた作品である。ミステリー小説が好きな人はもちろん、新しい小説を探している人にも、ぜひおすすめしたい作品である。