小説『踏切の幽霊』の感想

高野和明の小説「踏切の幽霊」は、都会の片隅にある踏切で撮影された心霊写真と、その踏切で相次ぐ列車の非常停止事件をめぐるミステリー小説である。

主人公は、雑誌記者の松田。彼は、読者からの投稿をもとに、この心霊ネタの取材に乗り出すが、やがて彼の調査は幽霊事件にまつわる思わぬ真実に辿り着く。

本作は、幽霊事件の真相を探るミステリーでありながらも、その裏側に隠された社会的な問題を浮き彫りにする社会派小説でもある。

まず、本作のミステリー要素について評価したい。本作の幽霊事件は、一見すると不可解なものである。しかし、松田の調査によって、その背後には、ある悲しい出来事が隠されていたことが明らかになる。

その出来事とは、若い女性が、彼女を愛する男に殺されたというものである。女性は、その男に愛されながらも、ある秘密を抱えていた。その秘密が、彼女の死につながるのである。

松田は、その秘密を解き明かすことによって、幽霊事件の真相に迫っていく。その過程で、彼は、女性の悲しい人生を垣間見る。

本作のミステリー要素は、単なるトリック探しではない。それは、登場人物の人間ドラマと密接に絡み合っており、読者の感情を揺さぶるものである。

次に、本作の社会派的な側面について評価したい。本作の舞台は、都会の片隅にある踏切である。その踏切は、ある工場と、その工場で働く人々の生活圏とを結ぶ、重要な場所である。

しかし、工場は、その労働環境が劣悪であり、多くの労働者が過労死や自殺に追い込まれていた。本作の幽霊事件は、その工場の労働問題を象徴するものでもある。

本作は、そうした労働問題に、鋭い視線を向けている。それは、現代社会が抱える問題を、私たちに改めて考えさせるものである。

最後に、本作の登場人物について評価したい。本作の主人公である松田は、優しく、正義感の強い人物である。彼は、幽霊事件の真相を明らかにするために、自らの身を危険に晒すこともいとわない。

松田の妻・陽子は、松田の良き理解者であり、彼を支える存在である。彼女は、松田の調査に協力し、彼の危険を察知して、彼を守ろうとする。

そして、幽霊事件の真相を解き明かす鍵となる女性・美緒は、悲しい運命を背負った人物である。彼女は、松田に自分の過去を語り、彼の心を動かす。

本作の登場人物は、それぞれが生き生きとした存在感を放っており、私たちの共感を呼ぶものである。

以上のように、本作は、幽霊事件の真相を探るミステリーでありながらも、その裏側に隠された社会的な問題を浮き彫りにする社会派小説である。

登場人物の人間ドラマと密接に絡み合ったミステリー要素、現代社会が抱える問題を鋭く描いた社会派的な側面、そして、生き生きとした存在感を放つ登場人物など、本作は、さまざまな魅力を備えた作品である。

私は、本作を、高野和明の代表作の一つとして評価したい。